ミーから見た三浦ハルと言うのは、小うるさいお姉さんだった。お姉さんって言うか、身体は大人だけど、頭はミーと同じ同年代みたいな、つまりは友達だ。

被り物をしているからといって、それが趣味だと決めつける、ちょっと頭が自分中心に先行してしまっているけれど、見た目は良いし、スタイルもまあまあ。

かといって、見上げてお姉ちゃんお姉ちゃんとしっぽを振って懐くような相手では無い。

向こうから突進してくるものを受け入れていたら、結果的にミーは三浦ハルに懐いていたという、周囲の視線から察することが出来た。

頬ずりをしてくる年上の女性は、大型犬のようだなと思った。ミーが幻術で出さなくとも、尾てい骨のあたりから出ている、毛でおおわれた、ふさふさの尻尾がちぎれんばかりに右へ左へ動いているように見えるのだ。

「やめてくださいハル姉さん。」

「えー、どうしてですかー?」

「ミーだって男なんですから。」

「それでも、ハルの前では可愛いフランちゃんです。」

「ムラムラしますー」

「はひ!そんな言葉誰に教えられたんですか!」

「並中の保険医という男からですけど。」

おっかなびっくりしたハル姉さん、ハルおばさん、ハル、三浦ハルがミーの肩を掴んで揺さぶりながら聞いてきた。これは尋問と同じですー。

被り物のせいで首から上が大きく揺れて気持ち悪くなってきた時に解放され、脱兎のごとくかけ出したハル姉さん。白のパンツ見えてます。

蛙の位置を「よっこいしょ」と、直していると、道の真ん中だったからか、小さな男の子が、ああ、あれは確かリボーンとかいう名前だった気がします。

奴が塀の上からこちらを見下ろしていました。

「何か用ですかー」

「散歩だ。」

「そうですか、あ、そういえば師匠がとっても喜んでましたよ。」

「ん、そうか。」

ミーも大喜びでした。とは言わなかった。お腹を抱えて笑わせてもらったこの赤ん坊の名前を忘れるなんて、紳士のミーとしてはちょっとお間抜けさんでした。

恭しく黒スーツの男が届けた高級感あふれる白い箱。師匠が期待と警戒で赤いリボンを解き、箱を開けてみるとそこにはあらまあ不思議。おいしそうなパイナップルが箱にずっしりと入っているではありませんか。

ミーと犬兄さんで一緒にお腹の中におさめましたけど、師匠の怒りは収まっておらず、今もこうして八つ当たりから避難中です。

そんな時に塀の上を平衡感覚を養うためだとか何だとか言っていた三浦ハル、ハル姉さんとあって頬ずりされて脱兎のごとくパンツを見せられたってわけです。

今日は結構な人と会ってるなー、日記でも付けてみるかー。と、考えていると、そういえば、過去に同じような事を思って何冊もノートを部屋の隅において、その上から居らないものをどんどん乗せて行った事を思い出しましたー。学習能力が大変優れているミーです故。

黒曜町から出て並盛にまでやってきている事に、リボーンが現れた時にやっと気がついたのです。

ハル姉さんはどうにもこうにも、ミーが居る所にひょっこり現れる摩訶不思議な女だと思っているので、頭が回らなかったわけです。

とあるコンビニの前を通りがかっているときに、駐車場にとめられている一台の車がありました。それなりに広い駐車場なのに、一台しか車が無いなんて、と思って見ていると、その影にいる、隣の駐車スペースのタイヤ止めのブロックに腰掛けている、ボンゴレ10代目とその守護者二人居ました。

ミーはどうするべきか腕を組んで悩みました。此処で挨拶しておくのが無難なのだろうけれど、ミー個人の私情をはさむと、挨拶なんてまっぴらごめんで、泥団子でも投げつけてやりたい気分。

パンを食べながら大声でしゃべっているその三人に、最終的に関わり合いたくないなと思って、右に曲がってばれずにおさらばしました。

曲がった後、すぐにハル姉さんが並中に行った事を思い出しました。あの保険医に何か言うつもりなのだろう。

暇だし、今ハル姉さんがどうなっているのか見てやろうと歩みを進めましたが、ミーは並中が何処なのかさっぱり分かりません。

っていうか、黒曜中すらしらないのに、相手方の中学校の場所なんて知るか。

そう師匠に言ったら「敵陣の場所を把握してないとは何事か。」とか言われそうだなー、と思っていましたが、言ったら一字一句外れず言われて吃驚したのは後の話です。

途中道を尋ねてみても「あそこには変態が居るから、あまり近づきたくないの。」と、ボンキュッボンな髪の長い女の人が、眉を顰めてそう言って、ほんのり赤みがかった髪をたなびかせながらミーの申し入れを拒否しやがりましたー。

そして次も二人組で、今度は並中の制服を着てるからビンゴだと思っていると「私子供嫌いなの。」「ごめんね僕、これから行かなくちゃいけない所があって・・・」と、言ってミーの前から立ち去って行きました。何だこの街。ろくな人間がいねーじゃねーか

けどまあ、その二人の並中学生がきていた道をたどって行けば、きっとつくだろうと一本道をまずたどって歩いてみた。右か左かという所に来たら学生服を着た男がこっちに向かって歩いて来ていました。制服何か違うなと思ったけど、コイツは雲雀恭弥で、並中の代名詞とも言える男であり、わが師匠の永遠のライバル。そう言ったら恰好がいいのでそう言ってあげます。

ミーは触らぬ神にたたりなしとばかりに、澄ました顔で横を通り過ぎようと思ったのですが、奴がローファーの先を地面につけたままぴたりと止まり、こちらを振り向きました。

「君、この街の人間じゃないね。」

なんでそんな事分かるんだよ。

と思ったのですが、こんな被り物をしているけったいな子供は多分見た事が無かったんでしょう。それなら仕方が無い。

「そうですけど。」

「何してるの。」

「別に、ただ散歩してるだけですよー」

「親は何処。」

「ミーに親はいません。」

「ふうん・・・」

「いいですか?ミーこう見えても忙しいんで。」

怪しんでいる雲雀恭弥が、迷っている間にとにかく距離を開けようと歩き、曲がり角を曲がったら一気にダッシュ!そうしていると、大きな建物が見えて、あそこが中学校だな。と、被り物を押さえながら走っているミーは、そのまま学校の敷地内に入りました。

そうすると、正面玄関から慌てたように三浦ハルが出てきて「はひー!」と、いつもの奇声を発しながら出てきていました。

後ろからは唇を突き出し、情けない顔をした保険医が「待ってよハルちゃーん」とかなんとか言いながら迫っていました。

関わり合いたくない光景ベスト10入りしそうなその現場から立ち去りたいのは山々だったのですが、三浦ハルの延長線上にはミーがいて、ミーをロックオンするとすぐさま、自分より小さな子供の肩を掴んで、その保険医の前に差し出すように壁にしました。

「ちょ・・・!」

保険医が、学校の中で履くサンダルをひっかけたままグラウンドに出てきていたので滑って転んでしまいました。

保険医のつきだした唇が、肩をおさえられ、逃げる事の出来ないミーに向かって飛んできました。

数々の死闘と森の中を駆け巡り、動物達とじゃれあいつつ血を流したミーにとって、これは精神的に来るホラー映像でした。

よけきれない。それならば、受け入れるのではなくこちらから迎え、と思って、蛙の被り物が唯一役に立つ攻撃、頭突きをかましてやりました。

保険医の唇はミーのキュートな被り物の眼と眼の間のくぼみにクリンヒットして、そのまま身体から力が抜けてグラウンドにずるずると伏せて落ちました。

「・・・はひ・・・?」

おそらく、ずっと眼を閉じていたのでしょう、振り返ると三浦ハルがおそるおそる瞼を押し上げて、砂埃で隠れそうになっている保険医を、何度も瞬きをして見下ろしていました。

「ハル姉さん、騒々しいです。」

「あ、フランちゃん!どうして此処に・・・って、あ!駄目ですよ!この人はとってもえろい人ですから、変な言葉覚えちゃうんです!」

「えー。」

「っていうか、どうしてフランちゃんシャマル先生と知り合いなんですか?」

「ああ、この人シャマルって言うんですかー。初めて聞きました。」

「ええー!」

眼を回している保険医を見下ろしながらそう言えば、ハル姉さんは眼を丸くしていました。

ミーはハル姉さんの手を掴んで、引っ張るようにして並中から出て行きました。ハル姉さんはミーの奇行に吃驚している様子ですが、雲雀恭弥が怪しんで戻って来た気配を感じたので、御礼を言ってほしいくらいです。

あの保険医がどうなったのかはさておいて、ミーはハル姉さんと手を繋いで、本当にお散歩をする事になってしまいました。

「だって、ハル姉さんが、ミーに抱きついてくるから。」

「だからと言って、ムラムラだなんて・・・」

「ミーはべたべたされるのが好きじゃないんです。」

「はひ・・・」

ショックを受けた三浦ハルは、がっくりと肩を落としてしまいました。別に、道行くおっさんに、男として見られるにはどうしたらいいかとか聞いた結果、こんなに落胆される事になるなんて思ってもいませんでしたから。これは不可抗力です。

いやいや、別にべたべたは好きじゃないけど、こうして手を繋ぐのは好きなんですよー。と、フォローを入れても聞く耳持ちません。

塀の上を歩いたりパンツ見せたりと、摩訶不思議な年上のお姉さん、女子中学生。

ミーには考えられない事ばっかりしてきたりするこの人が、人を好きになるだなんて考えられない。

好きになってほしかったらもとおしとやかになればいいのに、と、横目で見てみると、感情の起伏が激しい三浦ハルが、すでにご機嫌にミーと繋いでいる手を振りまわしながら、子供とのお散歩にご満悦。

まったく、将来嫁に貰ってもいいなんて考えてるのは、紳士で男前で器量と包容力のあるミーくらいなもんです。

 

 

「おやおやフラン。何時になく真剣に机に向かっているなんて珍しいですね。」

「ミーもそれなりにやる時はやるんですよー」

「それで、何をしているんですか?国語?算数?」

「いえ、日記ですー」

「・・・へえ・・・」

師匠が楽しげに笑っていたので、ミーは師匠に見つからない所に隠す事にしましたー。